東京高等裁判所 昭和26年(う)4128号 判決
刑の執行猶予の言渡を取り消されることなくして猶予期間を経過したときは、その刑の言渡が効力を失うことは、刑法第二十七条に規定するところであるが、それはその期間の経過とともに刑の言渡がなかつたと同様の法律上の効果を生ずるということを規定したに過ぎず、曽つて刑の執行猶予の言渡を受けたという事実は、歴史的客観的事実であつてこれは永久に消滅するものでない。このことは多く論ずるまでもなく明白な事柄である。而して有罪の判決において刑の量定をする場合には、単にその犯行の内容のみでなく、その犯人の年令、経歴、家庭の状況、犯行後の情状その他諸般の事情を量刑の資料として斟酌すべきであるから、被告人が過去において如何なる経歴を有したかを判決において認定することは敢て違法の処置ということはできない。原判決が所論のように既に執行猶予期間を経過し、刑の言渡がその効力を失つているに拘らず被告人が曽つて有罪判決を受けたことのある事実を認定しているのは、被告人の経歴の一端としてこれを掲げたに過ぎず、しかもこの事実を本件有罪判決の証拠に供したものでないことは勿論、必しも被告人に対し不利益な事実として殊更これを認定したものとも論断することができないから、原判決が右事実の認定をしたことを以て原判決に違法ありということはできない。論旨は理由がない。